食べ物を怖がる犬

その犬は五年ぐらい前に私がここに来た時よりももっと前からここにいる。
長い間エサをあげているけども昔からものすごく困っている。
去年ぐらいにその犬の兄弟が死んだ。
死んだほうの犬は何でも食べたし普通だった。
今いる犬はフレンドリーで食べ物がない時は人間を怖がらない。
初対面の人でも自分からしっぽを振って近づいていく感じ。
しかし人間のそばに食べ物があると絶対に人間には近づかない。
その犬は食べ物の好き嫌いも激しいが食べ物を食べる条件も厳しい。
食べ物がすぐそこにあっても条件に入らないと食べ物に近づくことはない。
食べ物から逃げ回る不思議な犬だ。
おそらく幼いころに盗み食いをして相当の罰を与えられたのだと思う。
捨ててあるもので他の犬も人間も誰もいないところでこっそり食べることはできるが、他の犬や人間がいると食べ物には全く興味がないふりをする。
本当はものすごく食べ物に興味があるのにだ。
そこまで演技しなくてもいいのにと毎日呆れる。
食べる場合も一口くわえて三メートル食べ物から離れて食べ物と反対方向を向いてから食べる。
一度皿から逃げてまた戻ってくるピストン往復を試みるのだ。
必死に食べ物には興味ないですよとアピールする。
頼むから皿の前で食ってくれよとずーっと思っている。
五秒十秒が勝負なのにそんなことをすると一瞬のうちにニワトリや他の犬に食べられてしまう。
兄弟犬がまだ生きていた時は、自分の兄弟なのに関わらずその兄弟犬が見ているところでは決して食べなかった。
わざわざ食べる場所を兄弟犬から遠く離すとか工夫してあげてもなかなか食べられる条件に入らず苦労していた。
その兄弟犬が死んだ時は、こっちが死んだのか、逆だったら良かったのにと真面目に思った。
それでも兄弟犬が死んでからは食べ物を与えるのは楽になった。
食べ物を兄弟犬から離す必要がないし兄弟犬に横取りされないように見張る必要もなかったからだ。
タイの田舎は犬は放し飼いが普通で近所の犬がたくさんやってくる。
兄弟犬でなくても近所の犬がいても食べない。
他の犬を追い払い見張ってやってもその間に食べてくれたことは一回もない。
私を含む人間が見えるところにいると食べないので同じだ。
兄弟犬が死んで楽になったのもつかの間で隣の幼稚園の先生が面倒見ていた犬が子供を産んだ後に子ごと放置されてなぜかここにいる。
赤ちゃんだったその子犬も今では大きくなってきた。
それで恐怖のあまり逃げて食べないので、私の小屋のベランダみたいなところに隔離して守ってあげた状態にしても何時間たっても決して食べない。
なぜか、ベランダみたいな場所に入れると恐怖のあまりがくがく震えている。
何が怖いのか全く理解してあげられない。
精神を病んでいるのだろう。
でも前居た別の犬もがくがくは震えないにしても発狂状態にはなった。
生れてから閉じ込められたことがない犬は数分閉じ込めただけで気でも狂ったようになるのは普通なのかも知れない。
他の犬がいても食べないが、他の犬が入れない場所でも食べないので食べる条件に入る場所はこの世に存在しない。
口に食べ物を何回入れてあげても何回でも吐く。
腹がすごく減っているはずで大好物の上等な肉でもそうなる。
隠れる場所などないのにこっそり隠れて食べたいらしい。
もらった物を食べるというのはこの犬にとって屈辱なのだろうか?
ベランダに隔離して食べさせる方法はこの五年間の間何度も試したが一度も成功したことはなかった。
(この記事を書いた後の夜にはじめて成功した。)
この犬はなんとかしてあげたいという気持ちを全て仇で返してきた。
人間が食べたくて食べたくてしょうがない貴重な肉を泣く思いで分けてあげたのにいつもニワトリや他の犬にほとんど取られている。
肉を食べるのを人間が我慢して犬用に回して与えても毎日こう。
肉を買ってこれる身分ではないのに犬を飼わなければいけないのは問題がありすぎる。
ニワトリなどの他の動物に横取りされるぐらいなら自分で食っとけばよかったよといつも後悔する。
肉ならなんでも食べるというわけではない。
魚は食べない。
ウインナーも食べないしジャーキーのように乾燥した肉は食べない。
ミンチにした肉も食べない。
乾燥したドッグフードも食べない。
もちろん卵も食べない。
米は大嫌いだ。
骨付きの肉とかステーキとかは食べる。
まさにふざけるなという感じだ。
それに比べ死んだ兄弟犬は全てが対照的だった。
兄弟犬は他の犬を自分で追い払い、食べ物の皿の前で最後まで食べた。
なんでも食べて米でも食べた。
エサの時間に呼べばすぐ走ってきてガツガツ食べた。
そして食べ終わると走って今いる犬のところにいってその食べ物を横取りした。
今いる犬は死んだ兄弟犬を恐れていたので離れている場所であってもなかなか食べようとせずに結局ほとんど兄弟犬やニワトリや他の犬にエサを横取りされていた。
日光猿軍団の猿も序列があってボス猿が食べ終わるまで他の猿は待っているみたいな話をテレビで大昔に見たことあるけど犬もそんな感じなんかなあ?
問題だったのは死んだ兄弟犬のほうが体が大きかった。
力でかなう相手ではなかった。
放し飼いだと犬の体格差というのは人生いや犬生に大きく影響する。
見ていて小型犬と猫がかわいそうでかわいそうで仕方ない。
放し飼いだと絶対に大型犬とその他の小型動物が混ざる問題があるが閉じ込められるというストレスと屈辱を与えられることはない。
閉じ込め飼いをしている人で故意に「犬と猫」あるいは「大型犬と小型犬」を混ぜて飼うような人は絶対地獄に落ちると思う。
閉じ込める虐待をしているなら、せめて大型犬と小型犬または犬と猫ぐらいは分けて欲しい。